潮田登久子さん撮影、山川菊栄文庫資料を含む写真集が刊行されました。

11月2日は山川菊栄の命日、3日は誕生日とSNS上でも発信してくださる方が少なくありません。今年の11月も何か朗報があるかも、との予感がありましたが、神奈川県立図書館の方が潮田登久子さんの写真集『改修前 前川國男設計 神奈川県立図書館』が刊行されたとお知らせくださいました。さっそく買いに行くと発行日は11月4日と書かれていました。

去る3月3日、県立図書館でのWikigap in Kanagawaで、潮田さんが撮影された山川菊栄文庫資料のことをご紹介しました。そのときは、レミントンジュニアの菊栄愛用タイプライターの撮影エピソードをお話ししました。

米国のレミントン社が製造したポータブルタイプのレミントンジュニアで、おそらく山川菊栄は『社会主義研究』(6号、1922年1月)から英文論文「Women in Modern Japan」(近代日本の女性)の連載を開始します。おそらくこれはタイプライターで打ったものと思われ、製造番号がわかれば山川菊栄が入手した時期も絞られてくるはずなのですが、シリアル番号を打ったプレートがなかなか見あたらなかったのです。そのことをお話したら、お連れ合いの島尾伸三氏がタイプライターをひょいと持ち上げられ、その途端にプラテンが動き、チーンという澄んだ音色が地下の作業室に響き渡りました。まさしく菊栄が打っていたときの音色だと思われ、なんともいえない感動を覚えたことが鮮やかによみがえる作品です。敷物は山川振作夫人の美代さんの名前が縫い付けてあるふろしきです。

ほかに、アウグスト・ベーベルの名著を菊栄が英語版から重訳、完訳した記念碑的な『婦人論 婦人の過去・現在・未来』(1923年3月、アルス社初版本)の金色の背文字のアップ。しゃれたゴシックの飾り文字はおそらくはアルス社の装丁を一手に引き受けていた山本鼎(かなえ)のデザインと思われるものです。アルス社は北原白秋の弟の出版社で、その年の関東大震災により壊滅的な打撃を受けるのですが、紙型が奇跡的に残っていたため、翌年再版することができました(再版の菊栄自序)。それから、女性の姿を影絵のように表紙に配置した米国女性局資料。戦前に取り寄せられていたものの一つで、アメリカの女性のあらゆる職業実態を調査し作成されていました。そして花の意匠が愛らしい日記帳、横浜地方法務局による人権擁護委員の木製看板の4点が写真集に収められています。

作品解説で残念な点を一つ。山川菊栄が社会主義を学んだ人として、「堺利彦・幸徳秋水、大杉栄」(p146)と書かれています。しかし、まずは初めて菊栄が社会主義について理論的にまとまった講演を聞き、結婚、均菊相和すと言われた山川均については、死別の後、息子の振作氏とともに思想の全貌を『山川均全集』(勁草書房)に編んで世に送り出しました。そして、雑誌『近代思想』でベーベルの訃報を書き『婦人論』の重要性を説き、『恋愛論』を共訳した堺利彦、ついで、大杉栄や先述の英文論文を書くことを勧めたという片山潜といったところになるでしょう。


ともあれ、神奈川県立図書館の改修前の歴史的空間と、蔵書のさまざまな表情を巧みに引き出した作品集となっています。猿田彦珈琲株式会社による発行で、図書館のカフェだけでの取り扱い販売となっています。お出かけの時にぜひお買い求めください(税込・3850円)。(山口順子)

千代田区男女共同参画センターで企画展示「女子の学びを切り開いた女性たち」と講演会が開かれます

東京の営団地下鉄・九段下駅からほど近く、千代田区役所と同じビルの10階に千代田区男女共同参画センターMIW(みゅう)があります。

男女共同参画週間の企画として、柚木麻子(ゆずきあさこ)さん執筆の小説『らんたん』に描かれた人物を通じて女性の教育に尽力した人々を紹介する「女子の学びを切り拓いた女性たち~小説『らんたん』の登場人物から」展がMIW交流サロンで開催され、山川菊栄も登場予定です。(6月17日(月)~29日(土)まで、開館時間9:00~21:00、期間中の休館など詳しい情報はセンターサイトをご覧ください。)

この小説によって大正デモクラシーの女性群像と山川菊栄を知ったという若い人も少なくありませんが、作者の講演会「柚木麻子さんと考えるシスターフッドのこれまでとこれから」(6月22日(土)午後2時~3時30分も、保育サービスつきで対面とオンライン両方で参加者を募集中です。

男女共同参画週間とは、内閣府の男女共同参画推進本部が実施する啓発週間で毎年、1999年の 男女共同参画社会基本法の公布・施行日である6月23日からの1週間、29日までとなっています。山川菊栄が労働省婦人少年局長として始めた「婦人週間」(のちに「女性週間」と改称)は初の女性参政権行使を記念した4月10日から1週間でしたが、2000年にこの男女共同参画週間にその役目をバトンタッチしました。キャッチフレーズは全国から募集して決定され、今年度は「だれもがどれも選べる社会に」が2000件以上の応募のなかから選ばれました。

なお、千代田区と言えば、番町四丁目(現・九段北)が山川菊栄生誕の地、よく通ったという博文館の大橋邸に開設された私立大橋図書館(現・三康図書館)、文筆の道へとつながっていった「閨秀文学会」が開催されたユニバーサリスト教会は震災前九段中坂下に存在していました。ほかにも開学当時の女子英学塾(のちの津田英学塾)跡(現・英国大使館そば)、戦後に初代局長となる労働省婦人少年局の最初の事務室が置かれていた、近衛師団司令部庁舎(北の丸公園内、旧・東京国立近代美術館工芸館)など、ゆかりの地がたくさんあります。

このサイト内にゆかりの地マップもありますので、緑のきれいな季節にそうしたスポットを訪ねるウォークも合わせて楽しんではいかがでしょうか。

WikiGap in Kanagawaオフライン参加とその副産物~山川菊栄の翻訳文献一覧表ベータ版公開

画像はWikiGap in Kanagawa実行委員会から提供いただきました。

去る3月3日に神奈川県立図書館で開催された「WikiGap in Kanagawa」オフラインイベントに参加しました。5年ぶりの対面開催ということもあり、定員20名は満席で、遠くは札幌からの遠路来場者もあり、高校三年生の男子学生を含む老若男女が相集いました。午前は、記念会から事務局長の山田が「山川菊栄ってどんな人」、山口からサイトニュースのこの一年のトピックを拾い、県立図書館の島課長から山川菊栄文庫資料について紹介がありました。山川菊栄について初めて知ったという参加者も少なくありませんでした。

午後はWikipediaのジェンダーバイヤスを変えるWikiGapの趣旨に沿って、「山川菊栄」ページや神奈川ゆかりの女性たちを中心に、ページの改訂や作成作業が、それぞれ参加者の興味に沿って行われました。8日までオンラインでも継続中です。また、ページ候補のリストも豊富に用意されています。

この活動のために県立図書館では活動支援として、担当司書の方が1階の山川菊栄記念コーナーで常設されている書籍や閉架図書など関係するものを会場に集めてくださいました。ご支援に改めて感謝申し上げます。

このイベントに後援参加する準備段階のやりとりから、山川菊栄が翻訳紹介した海外の女性たちのページで日本語以外の言語では多数存在するのに、日本語ページがない場合があることがわかりました。当日、ベテランのガチペディアさんたちが、ギルマンビアティのページを早速作ってくださったり山川菊栄翻訳との関係を書き加えてくださいました。

これに応えて、この2年ほど作業してきた「山川菊栄の翻訳文献一覧ー原著とその作者にみる国際性」を未定稿ながら公開することにいたしました。資料部情報extra-1番外発信として、PDFではなくgooglespreadシートに共有リンクをつけています。まだ不明事項も多いため随時更新していきますので、よろしくお願いいたします。

婦人問題懇話会の活動を通して、山川菊栄が実践していたフェミニズムの共同知の営みが、WikiGapを通じて広がっていくことを願っています。最後になりますが、この素晴らしい企画を実現してくださったWikiGap in Kanagawa実行委員会の皆様に心から感謝申し上げます。

2024年3月17日追記:ウィキペディアのコミュニティ情報交換の英語版サイトDiffに3月3日の参加者の一人Wasdakuramonこと門倉百合子さんがイベントレポートを通じて山川菊栄紹介も書いてくださいました。 また、ご本人のブログでも参加記を投稿してくださいました。門倉さんは、渋沢栄一記念財団で渋沢栄一のデータベース開発にも関わり、独立系司書として『70歳からのウィキペディアン』(郵研社、2023年)を著わした方です。門倉さん本当にありがとうございました。

2024年5月15日追記:『白水社の本棚』(2024年春号)に参加者の北村紗枝さんの「汗牛充棟だより13  ひなまつりにウィキペディアを書く〜WikiGap in Kanagawa 2024」https://www.hakusuisha.co.jp/hondana/ が掲載されたとの連絡が実行委員会の田子環さんからいただきました。お知らせいただきありがとうございました。

ひな祭りはWikigap in Kanagawaでお会いしましょう。

インターネット上の世界最大の百科事典「ウィキペディア」の女性に関する記事は男性に比べて少ないと言われています。書き手と内容の偏りが生み出している、Web上のジェンダーギャップ解消をめざし多様性のあるネット社会にしていこうという活動、WikiGap(ウィキギャップ)は、スウェーデン外務省とウィキメディア・スウェーデン協会が始めたキャンペーンで、2019年に駐日スウェーデン大使館で世界に先駆けて開催されました。

これに呼応した神奈川の実行委員会は、2019年、2021年(オンライン)と開催を重ねてきています。

今年は神奈川ゆかりの山川菊栄と山川菊栄文庫について理解を深め、山川菊栄のページとともに神奈川ゆかりの女性たちのページも充実させていこうとの趣旨で開催されます。

午前のパートでは記念会から「いま、もっと新しい山川菊栄」と題してお話することになりました。事務局長の山田敬子と世話人の山口順子が担当いたします。
定員20名と限られていますが、ウィキギャップに関心のある方、アカウントを事前に登録して、ぜひご参加ください。チラシPDF


◆日時:2024年3月3日(日) 10時00分から16時30分
◆場所:神奈川県立図書館 本館4階 学び⇔交流エリア
https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/user…/access/yokohama/
主催:WikiGapかながわ実行委員会
共催:神奈川県立図書館 
後援:山川菊栄記念会

◆定員:20名(先着順)
◆参加費:無料◆申込み期間:2024年2月29日(木)まで
◆申し込み方法:こちらのフォームからお申し込みください。
複数人で参加希望の場合、お手数ですがお一人ずつお申し込みください。

定員になりましたので締め切りました。

◆プログラム
9:30受付
10:00開会
ミニレクチャー
・WikiGapについて(WikiGapかながわ実行委員会)
・「いま、もっと新しい山川菊栄を!」(山川菊栄記念会)
・神奈川県立図書館の男女共同参画関連資料と山川菊栄文庫について(県立図書館)
11:30-13:00 昼休み ~昼食のとり方には注意が必要です。
13:00
ウィキペディアの編集方法について(WikiGapかながわ実行委員会)
神奈川県立図書館の使い方・資料紹介(県立図書館)
調査・執筆
16:00 ふりかえり
16:30閉会

◆持ち物やウィキペディアアカウントの事前取得、昼食のとり方についての諸注意など詳しくはフェイスブックイベント内のこちらをご覧ください。

明けましておめでとうございます。山川菊栄記念会は今年も新たな前進をめざします!

新年早々、日本海側で最大級という大地震が起き、大事故や火災などが続いています。落命された方々のご冥福をお祈りしますとともに、被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

本年もこの記念会サイトニュースをどうぞよろしくお願いいたします。

思い起こすと昨年の年頭は、神奈川県立図書館での山川菊栄文庫資料の整理を年度末に終わらせるための猛ダッシュに向かっていました。今更ですが、なつかしく思い出されます。

そのなかで、1969年NHKラジオで婦人週間記念番組を収録したレコード盤がひん死状態でみつかり、西川口のNHKアーカイブで、鶴見和子の山川菊栄へのインタビュー番組をデジタル復原していただきました。

神奈川県立図書館蔵書をテーマにして撮影を続ける女性写真家の潮田登久子さんと島尾伸三さんご夫妻が整理作業を訪問され、日記や古書などを撮影されました。島田さんが菊栄愛用のタイプライター(レミントンジュニア)をなんの衒いもなく持ち上げられたときにキャリッジが動いてチーンと、地下の作業室に澄んだ音が鳴り響きました。菊栄が猛然と打っていた時代がよみがえった思いがしました。写真集の刊行が間もなくとうかがっておりとても楽しみです。

国立映画アーカイブでは女性映画人特集があり、労働省婦人少年局企画の労働組合への女性の参画をテーマにして映画「新しい歌声」(丸山誠治監督)」では、同一賃金同一労働の有名なポスターがさりげなく最後のシーンに登場しました。

3月末には、このポスターを含む旧労働省婦人少年局等作成資料をデジタルアーカイブとして公表していたサイトの閉鎖決定に対して、記念会は、女性労働協会サイトに移して継続公開を要望しました。6月に再開が確認できました。

花束書房さんのお計らいで『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』の刊行がありました。記念会の山田事務局長のエッセイ、そして文庫資料の整理について世話人の座談会を収録していただきました。

8月に、山川菊栄文庫資料が神奈川県立図書館収蔵庫改修のため外部倉庫へ移転しました。2016年以降再開までの間、この文庫資料についてのパブリシティ活動を活発化していく必要があります。記念会サイトでは、文庫資料の解読や、最新の研究情報をお伝えすべく、9月末に資料部情報ページを新設し、第1号も発行しました。

10月には名古屋大学ジェンダーリサーチライブラリで山川菊栄をテーマにしたブックトークを開催していただき、山川菊栄文庫と資料について神奈川県立図書館の担当課長さんとともにご紹介する機会を得ました。

神奈川県立図書館では春と秋に、山川菊栄文庫資料の展示があり、関東大震災100年の今年は被災した菊栄から家族への書簡も読み下しとともにわかりやすく公開されました。

11月は、菊栄の3日の誕生日と2日の命日が重なる月、記念会でも過去にシンポジウムなどの周年行事を1日開催してきたところですが、昨年は、3日の鈴木裕子さんの講演会を
はじめとして毎週のように行事が続き、文字通りキクの花咲く菊栄月間となりました。
特筆すべきは次世代の方々のバイタリティあふれる企画が増え、未来からきた菊栄の思想の継承と行動が現れてきたことです。関係者の皆様のご尽力に深謝申し上げるとともに、今年も多様な活動が続いていくことを期待しています。

年末にはNWECの内閣府所管のもとでの機能一部移転が報じられました。内閣府サイトでのワーキング検討会など議論の経過が公開されていますが、独立行政法人としてのNWEC評価で常にSレベルを維持してきたこの施設の最大の特徴である、ライブラリとアーカイブについて言及が弱いことが懸念されます。
記念会の世話人山口順子が問題点をまとめ、「ジェンダー平等ライブラリアーカイブ」として格上げし女性史資料の受け皿とするよう提言しました。

一昨年、旧労働省婦人少年局等作成資料の国立公文書館移管について厚生労働省へ記念会は要望を続けました。国立公文書館を所管する内閣府にも要望しました。残念ながら、現状では国立公文書館には発行番号簿はあっても原資料は所蔵されていません。

「性差の日本史」展を企画された国立歴史民俗博物館名誉教授の横山百合子さんが『We Learn』(日本女性学習財団発行)の12月号と1月号に、NWECほかに厚生労働省から譲渡されたこの資料について書かれており、本来は行政資料として厚生労働省から移管すべきものであったことを明記されました。

記念会では、一昨年からの要望行動のエピローグを準備中です。国内アーカイブのジェンダー平等化へいささかでも貢献できればと考えています。

本年もご理解ご支援のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

*1月6日に一部加筆しました。

神奈川県立図書館の新本館がオープン!「共生」展示に「山川菊栄」のコーナーが誕生

75年前の1947年9月1日、山川菊栄が労働省初代婦人少年局長に任命されました。奇しくも、9月1日に、神奈川県立図書館の新本館が開館となり、1階の「共生」展示コーナーには山川菊栄が紹介されています。図書館には旧かながわ女性センターから引き継がれた山川菊栄文庫があります。神奈川県立図書館オープンサイトへ