昨年度に情報が得られた研究動向についていくつかご紹介します。
林葉子さんの「山川菊栄における『恋愛の自由』と『自主的母性』―公娼制度、結婚制度、母性の強制に抗する性管理政策批判の」展開」が『政治思想研究』25号(2025年5月)の特集「政治と性/ジェンダー/セクシュアリティ」に掲載されています。特集には2024年度の政治思想学会研究大会の報告4本が掲載されていますがその1本です。(政治思想学会サイト)
林さんは従来の山川研究が「社会主義婦人解放論者」として位置づけることにによって、その独自性に目が向けられないできているが、山川の独自性は、国家による性管理を廃し、女性たちの「恋愛の自由」と「自主的母性」を権利として守ることが「婦人解放の最も基礎的な二大要素」と主張していることであるとしています。
長志珠絵さんによる The Possibilities of Historical Writing During Total War: Exploring Kikue Yamakawa’s Narratives of “Women’s History”(「総力戦下における歴史記述の可能性 : 山川菊栄の「女性史」をたどる」), 『国際文化学研究: 神戸大学大学院国際文化学研究科紀要』64号, 2025年9月, 1-49、神戸大学学術成果リポジトリ内(https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/0100497890) は、
従来「女性史」の範疇のなかで必ずしも読まれてこなかった、山川菊栄の戦時下の二作品『武家の女性』と『わが住む村』を検討して、家庭や地域のなかの働き手としての女性たちに焦点をあて、当事者の記憶を記録するエゴグラムをもとにしたパブリックヒストリーの手法に通じるものとしています。
三つ目ですが、日仏女性研究学会の年報『女性空間』43号(デジタル版のみ、2026年1月)、に「生誕135年の山川菊栄とフランス」と題して、山口順子(山川菊栄記念会世話人、オノーレ情報文化研究所)がエッセイを書いています。

父親の森田龍之助がパリのレ・アール市場での技能習得を経て、豚博士の異名をとった豚肉加工技術の専門家であったこと、これまで知られていなかった、山川菊栄の最初の翻訳と目される作品がドーデの月曜物語の短編からのもので『明星』へのデビュー作であったこと(『山川菊栄記念会*資料部情報』5号、 2025年4月)、神奈川県立図書館蔵山川菊栄文庫のなかに、フランスのフェミニストで女性労働運動家のパンフレットが見つかっていること、姉の松栄がエスペラント語に訳した菊栄によるエッセイが、パリ発行のエスペランティストの団体機関紙に掲載されていたことなどを通して、新視点を加えながらフランスとの接点を紹介しました。
なお、日仏女性研究学会(日仏女性資料センター、1983年設立)は、現在日本で最も長い活動記録をもつ女性団体であり、山川菊栄が設立した婦人問題懇話会会員からは井上輝子、伊藤恭子、日置久子、山口順子らが設立当初からの参加となっています。



