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混迷する世の中だからこそ、山川菊栄の魅力ある文体に注目が集まっています。

山川菊栄に深く関心を寄せてくれているある方から、12月9日付日経新聞電子版・会員限定記事に鹿島茂さんが菊池寛の戦時中の文章を追うなか、山川菊栄の文体、特に巧妙な当局批判を展開していることについてお書きいただいているとお知らせがありました。「思想家・山川菊栄の文体を味わう」(連載『半歩遅れの読書術』)という記事です。

鹿島さんが『文藝春秋』8月号特集「日本の100人」に山川菊栄を推挙してくださっていることは、この記念会サイトニュースでも7月29日号でとりあげました。今回は、記念会世話人の一人である鈴木裕子さんの著書『忘れられた思想家・山川菊栄  フェミニズムと戦時下の抵抗』(梨の木舎、2022年3月)を引用しながら、戦時下の著作に着目され、鋭利に滋味深い文体が展開されている『武家の女性』『わが住む村』(三国書房、1943年)も推薦されています。

実際に古書としてこの2冊の初版本を手にすると、戦時中のざらつく用紙に明朝体の活字で印刷されており、困難な情勢の一端を感ずることができます。

いずれも岩波文庫で入手できますが、両方収録されている、田中寿美子, 山川振作 編集『山川菊栄集』10 (武家の女性他)(岩波書店,1981.12、国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12141436 )が、個人送信限定で読めるようになっています。

また、歴史家で評論家の山崎雅弘さんもXやFacebookで山川の文章を賞賛してくださいっています。

閉塞した言論空間のなかでも希望を捨てず、文筆に理想を託した山川菊栄ですが、混迷を極める今だからこそ、そうした姿勢が注目されているのだと思います。

東京ウィメンズプラザフォーラムで、ミモザウエイズ東京公演映像を上映予定とのことです。

今年の2月のニュースでお知らせしましたミモザウェイズの日本の女性史を演劇で表現した映画プロジェクトですが、11月12日の東京ウィメンズプラザフォーラムで、その一部が上映されるとのことです。東京・福生の公演では山川菊栄のポートレイトが舞台で大きく映されていたことを思い出します。

このイベントは、OP-CEDAWアクション東京が企画した、選択議定書批准について理解を深めるユニークな集会です。1985年に日本が批准した女性差別撤廃条約ですが、1999年により実効性を高める個人通報制度と調査制度を含む選択議定書が採択されました。日本はまだこれを批准していないため、批准に向けて政府への要望や啓発活動を進めているのがOP-CEDAWアクション東京です。ぜひご参加ください。

東京ウィメンズプラザフォーラム OP-CEDAWアクション東京 企画 「ミモザウェイズ」を見て語ろう! 女性差別撤廃条約

女性史100年を描いた演劇「ミモザウェイズ」動画より1910年代を視聴後、女性差別撤廃条約と選択議定書を知り、グループディスカッションで未来を語り合います。

日 時:2023年11月12日(日)13:30~15:30
場 所:東京ウィメンズプラザ ホール

参加費:500円
【プログラム】
●演劇「ミモザウェイズ」動画(1910年代)視聴(30分)
●コントで演じる「女性差別撤廃条約と選択議定書」
●グループディスカッション
●報告と語り合い

申込フォームはこちらからどうぞ

11月3日山川菊栄の133回目の誕生日に学習会「山川菊栄のフェミニズムー生きること、表現すること、闘うこと」が開催されます。

札幌で学習グループ・What’sを主催していらっしゃる水上さえさんから、次のような山川菊栄の誕生日の学習会企画のお知らせをいただきました。講師の鈴木裕子さんが昨年出版された『忘れられた思想家 山川菊栄』(梨の木舎、2022年4月刊)の特別価格販売もあるとのことです。参加予約をぜひお急ぎください。

『山川菊栄のフェミニズムー生きること、表現すること、闘うこと』

日時 11月3日(金・祝)17:30~20:00

場所 東京・水道橋 あめにてぃかふぇ梨の木舎(対面のみ)

講師:鈴木裕子先生(「忘れられた思想家 山川菊栄」著者 ※当日は特別価格にて販売いたします。)

参加費:予約1500円 当日1800円 

※資料印刷の関係でなるべくご予約いただけるとありがたいです。

詳細・お申込み→ https://onl.sc/eVkzXkn 11月2日まで受け付けています。

共催:what’s ,梨の木舎

名古屋大学ジェンダーリサーチライブラリ・GRLブックセミナーに参加しました。

10月22日のきれいな秋晴れの午後、セミナーに参加しました。地下鉄名古屋大学駅からすぐのところに、一軒家風のカフェを併設した愛らしいライブラリがありました。大学構内の奥まったところにあるかと思いきや、幹線道路沿い、付近には飲食店も多く、コミュニティに開かれた位置にある大学付設の日本有数のジェンダーライブラリだとわかりました。

名古屋は2年前に急逝した井上輝子記念会代表の縁の地でもあります。東海ジェンダー研究所の理事を務めながらその研究所の活動をとても大切にしていました。井上さんを偲びつつ、GRLの水田珠枝文庫の貴重書の棚を拝見しました。

ブックセミナーは、第1部で、豊田真穂さん「生理休暇を考える」、高柳聡子さん「コロンタイの翻訳者としての山川菊栄」、趙書心さん「クィアを翻訳する菊栄」の3名の報告があり、花束書房の本を補足し、発展させた内容で、山川の今日的意義を語られました。
第2部は、「ライブラリで出会う女性の蔵書コレクション―「山川菊栄文庫」「水田珠枝文庫」の継承と活用」とのテーマでの対談で、神奈川県立図書館の島香織さんが神奈川婦人総合センター時代からの山川菊栄文庫が、県立図書館の再整備計画の中で、どのような位置づけになっているか、また文庫資料について、山川菊栄記念会の協力を得て、利用に向けた整備を進める予定と話されました。記念会の山口からは、山川菊栄文庫資料の全体像を示し、そのなかからコロンタイやサンガーの宣伝チラシ、パンフレットなどを紹介。またレスター・ウォードの『ピュアソシオロジー』の第2版が寺田鼎、堺利彦を経て山川菊栄へと渡っていること、1923年にベーベルの『婦人論』が山川菊栄訳としてアルスから出た初版が、関東大震災を経て再刊された経緯などを紹介しました。青木玲子さんは、NWEC、東京都をはじめ各地の男女共同参画センターなどでの経験について、また名古屋大学GRLには構想の当初から、東海ジェンダー研究所として関わってこられたことから、女性関連資料をアーカイブとして残すこと、またそれを活用することを、イギリスなどの事例を交えて話されました。

改めて、このセミナーを企画いただいた花束書房の伊藤春奈さんとGRLの林葉子教授に深謝申し上げます。
全体概要は、後日、名古屋大学のGRLからの報告にも出る予定です。発行後こちらのニュースでもお知らせします。

花束書房さんの『未来から来たフェミニスト-北村兼子と山川菊栄』の出版を起点として、山川菊栄を次につなげていこうという若い世代の方々が沢山おられることに大きな力をいただきました。記念会では、山川文庫資料の整理、公開に向けて、よりよい方向性を求めつつ、今後とも県立図書館に協力してまいります。

神奈川県立図書館収蔵庫改修のための山川菊栄文庫及び資料の移転について

この記念会ニュースの第1号は、昨年の2022年6月24日でしたが、山川菊栄文庫資料の整理が進んでいるとお伝えしました。それから1年、この5月に一応のめどをつけました。そして、収蔵庫改修に向けた外部への移転が8月に行われたとのことです。収蔵庫の完成と供用開始は、2026年以降を予定されています。

先に出版された『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』のなかでも触れられていますように、山川菊栄に晩年同居し資料整理に長らく携わった岡部雅子さんのノートが約50冊あり、これによって円滑な作業を進めることができました。また、改めてご遺族の山川振作氏そして山川しげみ氏が、神奈川県立女性センターへの寄贈についてご理解を示してくださっていたことに深く感謝申し上げる次第です。

岡部雅子さんの記録ノート

資料の構造は大きく3つにわけることができ、①山川菊栄資料、②山川菊栄と振作氏による『山川均全集』(全20巻、勁草書房刊)の編集関係資料、そして、③青山家・森田家・山川家文書となります。幕末から20世紀後半までの年代域があり、内容的には、書簡を中心として非常に多様な資料群となっています。

山川菊栄資料では、日記、手帳、ノート、自筆原稿のほか、書簡(国内外からの受領書簡や家族間の往復書簡)、労働省婦人少年局・GHQ関連資料、労働団体や市民グループ等関連資料、『覚書 幕末の水戸藩』等に関連した収集資料、新聞スクラップ、写真、音源メディア、古書・新聞雑誌・パンフレット、現物として愛用のレミントン・ジュニアのタイプライターとケース、うずら園経営に関するものや人権擁護委員の木製看板等を含みます。

写真の主だったものは、山川菊栄記念会・労働者運動資料室編 「イヌとからすとうずらとペンと 山川菊栄・ 山川均写真集」 (2016年、同時代社)にまとめられています。ご希望の方は山川菊栄記念会までご連絡ください。

記念会では資料の目録化に向けて図書館に協力していくほか、研究基盤の充実と利用支援をめざして、このサイト上から「山川菊栄記念会*資料部情報」の発信を始めました。第1号はこちらからご覧ください。

神奈川県立図書館の講演会「関東大震災と女性たち」(講師・栗田隆子さん)のお知らせ

来たる11月19日(日)14時から16時まで、神奈川県立図書館で講演会が開かれます。講師は山川菊栄のドキュメンタリ映画にも出演いただいた栗田隆子(くりたりゅうこ)さんです。栗田さんは先に出版された『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』にも書評エッセイ「Unforgettable-忘却を阻むために 」を書かれています。

今回の講演は山川菊栄の家族あて書簡も展示されている、神奈川県立図書館での関東大震災100年展示に関連して行われるものです。

ちらしのPDFはこちらからダウンロードできます。

会場参加のみで人数に限りがあります。10月11日から11月1日まで、e-kanagawa電子申請システムのフォームから申し込みを受け付けるとのことです。

詳しくは図書館のイベントサイトもご覧ください。

「山川菊栄記念会*資料部情報」の発信開始について


このほど、この記念会サイトに「資料部」のページを設けて、「資料部情報」の発信を始めることとなりました。

ヴァーチャルなサイトページ上で、神奈川県立図書館の山川菊栄文庫関連資料を始め山川菊栄研究に資するような情報提供を不定期ですが、PDFで提供していきます。オープンソースとしてどなたでもご利用いただけます。

このサイト全体と同様、クリエイティブコモンズ4.0のライセンスとなります。非営利に限り、引用形式を必ず守ってご活用ください。

第1号は山田敬子事務局長による「一枚の写真から」です。こちらからご覧ください。

名古屋大学ジェンダーリサーチライブラリ・ブックセミナー「未来からきたフェミニスト 山川菊栄と再会する」が開催されます。

先日の『毎日新聞』(9月9日付)書評欄に花束書房から出た『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』の広告がみられましたが、このほど、出版記念として山川菊栄に焦点をあてたイベントが、10月22日(日)、名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリで開催されます。

対面とオンラインのハイブリッド方式での開催です。参加無料ですが事前申し込みが必要です。

参加登録フォームは、https://ssl.form-mailer.jp/fms/dc899353796604 へ。先着順での締め切りとなります。お早めにお申し込みください。す。

関東大震災で被災した山川菊栄の手紙が神奈川県立図書館で展示されています。

ちょうど1世紀前の関東大震災の日、9月1日が近づいてきました。

ちょうど1世紀前の関東大震災の日、9月1日が近づいてきました。

 以前お知らせした神奈川県立図書館の展示「関東大震災100年 神奈川県の被害と復興」には、東京で被災した山川菊栄が母と姉・松栄にあてた手紙が書き起こしとともに展示されています。拡大コピーと書き起こしが読みやすく展示されており、あわせてそのときの避難経路も地図に示されています。菊栄と学齢期を迎えようとする一子・振作は、東京三田の慶應義塾大学そば、札ノ辻で被災し、バスや馬力という乗り物を乗り継いで、夕方、大森の自宅まで帰り着きます。書簡は9月3日付ですが、2日の午後から朝鮮人襲来のデマがあったこと、半鐘が鳴り響き、異様な空気であったことなどを書き伝えました。後年の名作「おんな二代の記」にもこの大震災の体験は「天災と人災」の章でさらに克明に記されており、貴重な歴史的証言となっています。9月2日午後に馬に乗った兵士が慌ただしく触れ回るデマを聞いても、合理的な思考とともに冷静さを保ちながら過ごしていく山川夫妻のようすがうかがえます。

 菊栄は、翌1924年「大試練を経た婦人の使命」(『山川菊栄集』第3巻251頁、初出は『大正一三年婦人宝鑑:家庭百科全書』大阪毎日新聞社編纂発行、国立国会図書館デジタルコレクション)のなかで、「黒船に怯えた幕府時代の日本と、世界の大国の班に列する今の日本との間に、果たして何ほどの思想的進歩があったかを怪しまずにはいられなかった。いかに不用意の際に巧妙な流言が行われたにせよ、日本人が一般的にいま少しく人命の貴重さを知り、人道の何足るかを心得ていたならば、あれほどの残虐は行われなかったであろう。褊狭なる愛国主義。封建的な尚武思想、排他的な島国根性! これらに禍された日本人の教養は、今日一等国をもって誇る国民に中に、敵の髑髏をもって装飾品とする蒙昧人を多く産出するようなこととなったのである」と、朝鮮人虐殺に加担した人々を批判しています。また国民全体の道徳的欠陥や教養の低さについて猛省を促しています。そして、震災直後に菊栄も加わって結成された東京の婦人団体連合会が、甘粕大尉の虐殺事件に対して人道の名において抗議を発表したことを「まことに意義あること」とし、患者の看護にあたった看護師たちの勇気をたたえ、「人の生命を奪う代わりに生命を与えることを本分とする婦人が、今後、今回のごとき残虐行為を防止すべく、平和と人道との名における大々的な運動を起こさねばならぬことは当然であろう」と書きました。

 虐殺された朝鮮人の人々の数はまだ正確にわかっていませんが、山田昭次氏が在日本館等大震災罹災朝鮮同砲慰問班による調査報告をもとに再計算した数値では、神奈川が最も多く3999人、東京1781人、埼玉488人、千葉329人、群馬34人、栃木8人、茨城5人となっています(2023年高麗博物館企画展図録「関東大震災100年 隠蔽された朝鮮人虐殺」9頁・展示は12月24日まで)。このほかにも中国人や障がい者、労働運動者、社会主義者が犠牲となりました。大杉栄、伊藤野枝、橘宗一3人の暴行致死も、金子文子と朴烈の不当逮捕と獄死も、関東大震災の混乱に乗じた軍や警察当局の非人道的な蛮行が原因です。

 9月2日の午後にデマを伝えながら鳴らされていたという半鐘は、サイレンや有線放送、メールなどに置き換わっていき過去の遺物だと思われがちですが、まだ消防団の建物に付随して残っている地域もあります。100年前のような目的で鳴らされることが二度とあってはなりません。

神奈川県立図書館の展示は今年末までですが、11月に展示替えが予定されています。詳細は図書館まで(電話代表・045-263-5900)。