山川菊栄生誕135年・2025年を振り返って

1890年に生まれた山川菊栄がもし生きていたら、135歳となっていた2025年も暮れようとしています。

35歳のとき、『報知新聞』紙上に家制度の廃止から労働市場における性差別の解消要求を網羅した「無産政党と婦人の要求」を連載しました。そして、所属していた政治研究会神戸支部婦人部を通じて「婦人の特殊要求について」として、政治研究会本部に綱領の修正を要求しました。また、左派労働運動の女性活動家たちが集う日本労働組合評議会全国婦人部協議会で「婦人部テーゼ」を起草し、採択されました。今年は、それから100年という節目でもありました。これに関連して、5月に出た平地一郎さんの論考にとても感銘を受けました。記念会にも送っていただいています。
平地一郎「婦人の特集要求から100年」(月刊『社会主義』2025年5月号)
http://www.kyokai.gr.jp/syakaisyugi2505.html


今年のいくつかのトピックを振り返ってみると、昨年に引き続き、3月にWikigap in Kanagawaが神奈川県立図書館で開催され、Wikipediaの山川菊栄の日本語ページをはじめ、神奈川ゆかりの女性たちの項目が充実していきました。山川菊栄の外国語版のページでは、昨年3月には、英語はもとより、中国語、韓国語、ロシア語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、カタル―ニヤ語、インドネシア語、南インド・マラヤーラム語版がありましたが、現在、アラビア語やフィリピンの中央で話されているビコール語のページが新たにうまれています。また、「赤爛会」はベンガル語のページも作成されています。

4月には、昨年、国立公文書館に山川菊栄記念会から寄贈した、菊栄旧蔵の労働省婦人少年局作成資料65点について、同館のデータベース搭載と公開が始まりました。蔵書印や本人の書き込みのある唯一無二も資料です。現在、「新規公表」のファイルのなかに、ほかの3つの文書群とともに表示されており、「資料群詳細」として、資料来歴や、神奈川県立図書館に山川菊栄文庫があることも紹介されています。保管場所は東京竹橋の本館ですので、事前予約なく請求手続きを行えば閲覧することができます。


7月には、藤沢の読書会「菊栄カフェ」が第10回を迎えました。会場のBookyさんの御理解御協力もあって、『わが住む村』を地元村岡で読み続け、熱心なファンが定着してきました。Bookyさんの棚で記念会関連の出版物も手に取ってご覧いただけるようになっており、まとめて買ってくださる方も現れました。

また、冒頭に触れた「婦人の特殊要求について」と「婦人部テーゼ」を高く評価され、山川菊栄の跡を継ぐように女性労働研究に邁進された、記念会の世話人でもあった竹中恵美子さんが7月鬼籍に入られました。山川菊栄生誕100年記念のシンポジウムでの講演は、竹中恵美子著作集7の「現代フェミニズムと労働論」に、第3章「 山川菊栄におけるマルクス主義フェミニズム」として収録されています。この講演の中で竹中さんは、

「私が菊栄氏に深い思いをよせ、あるいは心酔いたしますのは、一つは、非常に優れた理論家であると同時に、働く女性に対して限りなく熱いまなざしを持った情熱家であった、という点にあります。」

と述べられています。この言葉について、これは山川菊栄のことであり、竹中恵美子さんご自身のことだと「竹中恵美子さんを偲ぶ会」で紹介させていただきました。

10月には、藤沢の旧居近くにあった村岡公民館の老朽化に伴い、新しい「村岡市民センター」が地域福祉機能を伴ってオープン。待ちにまった市民のみなさんの熱気のなか、山川菊栄記念会で制作した、『わが住む村』と山川菊栄を紹介するパネルをご披露することができました。展示パネルは1階の休憩室のコーナー近くに掲示され、湘南うずら園経営のことや夫・均とともに農業にいそしんだ姿、そして最晩年にNHKのインタービューを受けたことなどを伝えています。ここに至る、地元のみなさまの応援と御理解御協力に改めて感謝申し上げます。

神奈川県立図書館は、現在新収蔵庫の整備の最終盤にきていますが、山川菊栄文庫の再開を首を長くしてまっている方が大勢います。そのようななか、図書館の方々も内部工事と移転準備の傍ら、山川菊栄の生誕135年関連イベントとしてパネル展示と謎解きの企画実施をしてくださいました。パネルは記念会が生誕120年の時に制作し(一部、今年改稿。追加)寄託しているもので、若い司書さんを中心にパネル展示だけでなく、図書館のいろいろな部署と協力して、本棚や検索パソコンをめぐっていく斬新な謎解きに挑戦していくというイベントが加えられました。山川菊栄をまだ知らない人を含めて、いろいろな人々が山川菊栄とその仕事に親しむ機会となり、とても感銘を受けました。神奈川県立図書館の関係の皆様に改めて感謝申し上げます。村岡市民センターとともに、記念会だけでは不可能なアウトリーチとして、また次の世代に山川菊栄を伝えていくという点でも大きな意味をもったイベントでした。

山川菊栄の誕生月、11月には江東の女性史研究会のみなさんの企画により、江東区主催「いろどりフォーラム2025男女共同参画フォーラム」の一環として、ドキュメンタリー映画「姉妹よ、まずかく疑うことを習え」の上映と記念会の事務局長山田敬子の解説がパルシティ江東で行われました。1999年にドメス出版から出された『江東に生きた女性たち』(完売)を編纂した江東区女性史編集委員会の解散後も共同学習を続け、息の長い活動をしている有志のグループが「江東の女性史研究会」です。

今年の特徴として、海外での複数の翻訳企画から著作権等の照会がありました。数多くの翻訳作品を残した山川菊栄ですが、いよいよ21世紀にその国際性が発揮されていくと思われます。来年以降、翻訳出版の知らせと評価が届くことを心から楽しみにしています。




エトセトラ・ブックスさんが梓会出版文化賞を受賞されました。

東京の京王井之頭線・新代田駅すぐそばにある、フェミニズム専門出版社でありBookshopでもあるエトセトラ・ブックスさんは2018年に設立され、雑誌『エトセトラ』を共同編集して発行したり、書籍も出版されています。このほど第41回梓会出版文化賞の受賞されました。この賞は出版梓会が主催し、中小出版社のすぐれた出版活動に光をあてて授与されてきたものです。かなり以前にお訪ねしたときに、代表の松尾亜紀子さんとお会いすることができ、ふと本棚の上の方をみると、『山川菊栄集』(岩波書店)がずらっと並べられていて、松尾さんが「お守りがわりです」と、話されたのがとても印象的でした。

一層のご活躍ご発展をお祈りしています。Webサイト:https://etcbooks.co.jp/bookshop/

竹中恵美子さんを偲ぶ会に参列して


10月11日に大阪ドーンセンターで、山川菊栄記念会で活躍された女性労働研究者の竹中恵美子さん(7月1日逝去、享年95)を偲ぶ会が開催されました。同じ日の午前には、「第56回大阪社会運動物故者顕彰・追悼式」が行われ、竹中さんもおつれあいの姜在彦さんと並んで顕彰されました。


大阪をフィールドに広く女性の活動に関わってこられた竹中さんらしく偲ぶ会の実行委員会は、「高齢社会をよくする女性の会・大坂」「フォーラム労働・社会政策・ジェンダー」「一般財団法人大阪府男女共同参画推進財団」「一般財団法人大阪いきいき財団」の4団体、協力団体には「あい女性会議大阪」「認定NPO法人ウイメンズアクションネットワーク」「公益財団法人大阪社会運動エル・ライブラリー」「公益財団法人大阪YWCA」「ふぇみん大阪」「部落解放同盟大阪府連合会女性部」とが連なり、その活動の広さと影響力の大きさを物語っていました。


参加者は80名ほどでしたが、お世話になった方々の思いあふれるスピーチが行われ続きました。記念会からは事務局長の山田が選考委員・世話人になっていただいていたこと、生誕100年の時、竹中さんが話された「保護と平等・対立の構造を斬る~山川菊栄の女性労働論」と「日本におけるマルクス主義フェミニズムの源流~山川菊栄の今日的意義」の二つが、山川菊栄研究の礎になる功績だと紹介しました。このなかで、竹中さんは「私が菊栄氏に深い思いをよせ、あるいは心酔いたしますのは、一つは、非常に優れた理論家であると同時に、働く女性に対して限りなく熱いまなざしを持った情熱家であった、という点にあります。」と述べられています。これこそまさに、竹中さんそのものではないかと思いますうとお話ししました。また、15年前の山川菊栄のドキュメンタリー映画「姉妹よ、まずかく疑うことを習え 山川菊栄の思想と活動」への出演のことも紹介もしました。偲ぶ会の報告集は12月にでるとのことでした。

竹中文庫は大阪ドーンセンターに入っており、著作や蔵書のほかに「自分史ノート」としてクリアファイルに年度ごとに様々な資料がきれいに整理されていることに感銘を受けました。また大学をお辞めになるときの記念文集のタイトルが「自転車とベレー帽」で竹中さんご自身でつけたとのことでしたが、ベレー帽をかぶってさっそうと大学に向かう竹中さんの姿を彷彿とさせ、この竹中文庫は、竹中ワールドを体感できる空間でもありました。

改めてご冥福をお祈りいたします。(山田敬子)

*追悼展「竹中恵美子文庫」(10月13日で終了しています)へのリンク https://www.jcross.com/exhibit/002701/

11月のBOOKYさん「ひと箱古本市」イベントと山川菊栄カフェ

今月3日は山川菊栄生誕135年の日でした。かつて行っていたような周年記念の講演会などのような大きなイベントは企画しませんでしたが、神奈川県立図書館でのパネル展と謎解きイベント(11月12日までです。お急ぎください)が若い司書の方の企画から生まれました。
また先月には、山川菊栄・均夫妻が長らく住んでいたゆかりの藤沢市村岡の地に市民センターが誕生し、その一画に記念会制作のパネルが掲示されました。若い夫婦がパネルを指さして何か話し込んでいる姿も見受けられました。
山川菊栄の名を知っているフェミニストだけでなく、まったく知らない世代にどうアプローチしていくのか、記念会の普及活動として大きな課題だったことが少しずつクリアできてきているように感じています。

その普及力の一つになってきているのが、藤沢BOOKYさんでの読書会と記念会の小さな本棚です。いつもお世話になっているBOOKYさんが11月5日に『神奈川新聞』にとりあげられたとのことです。(街の書店探訪 シェア型本屋&カフェBOOKY(藤沢))


今度の11月15日土曜日には藤沢BOOKYさんで「ひと箱古本市」(出店時間は13時~18時)が開催されます。今年の5月にも参加しましたが、山川菊栄記念会関連の出版物を並べますので、ぜひお立ち寄りください。 翌日の11月16日日曜日は、同じくBOOKYさんで第14回の菊栄読書会(14:00~16:00)となります。『わが住む村』の「三代の娘」後半 p.129から読みますので、岩波文庫を忘れずにお持ちいただき、BOOKYさんのおいしい飲み物やお菓子の注文もお願いします。人数を把握するため、記念会までご連絡ください。y.kikueアットマークshonanfujisawa.com

*追記 次回は12月14日(日)を予定しています。

神奈川県立図書館でミニ展示「山川菊栄 生誕135周年関連展示」が10月10日から11月12日まで開催されます。

1890年に生まれた山川菊栄は、今年生誕135年を迎えました。山川菊栄文庫を所蔵する神奈川県立図書館で、明日から、生誕135周年に関連した展示会、そして謎解きイベントが開催されます。

神奈川県立図書館パネル展示
写真提供:神奈川県立図書館

神奈川県立図書館新本館

期間は、10月10日(金曜日)から11月12日(水曜日)まで、9時から19時まで(ただし土曜日・日曜日・祝休日は17時まで)で、月曜日(祝休日は開館)は休館となります。

会場は、県立図書館本館3階 カウンター前、同4階壁面にパネル展示があります。

関連イベントとして、謎解きイベント(所要時間 20~30分程度)が用意されています。

本館1階の階段前の案内板から「story1」を手に取って、謎を解きながら、館内をめぐっていく趣向で、参加費は無料とのことです。

くわしくは県立図書館サイトをご覧ください。

1階の共生コーナーにある山川菊栄の著書と関連図書のコーナーもどうぞお見逃しなく

追記:神奈川県立図書館の司書の出番のページに展示秘話がつづられています。

https://www.klnet.pref.kanagawa.jp/publications/public-relations/shishonodeban/2025/10/135.html

次回、「山川菊栄カフェ」(わが住む村 読書会)は、10月19日(日)に開催します。


『わが住む村』読書会。第12回目が9月20日(土)に開催されました。参加者7名。
岩波文庫版 p.110~p.121「綿畑と狐のゆくえ」の節を読みました。

この藤沢の地でも、綿花を栽培していたとのこと。明治の頃から盛んになり、摘んだ綿から糸にして反物を織り、嫁入り道具として持たせた話。それも日露戦争のころから姿を消していった、とあります。社会が近代化する中で「狐に化かされた」話も、時を同じくして消えていく。明治生まれの菊栄の世情をみつめるまなざしがうかがわれます。

 このあとも、毎月1回のペースで読書会を続けていきたいと思っています。今後は、
・次回  10月19日(日)14時から
・その次 11月16日(日)14時から を予定しています。

 参加費は無料ですが、カフェでのオーダーをお願いします。
 ブックカフェ営業中ですので、ふらりとお立ち寄りになるのでかまいません。初めての方、大歓迎です。ただし椅子のご用意の都合もありますので、できればご連絡いただけると助かります。
連絡先:y.kikue @ shonanfujisawa.com (半角をつめてください)

 また、その間、11月15日(土)には、BOOKYさんでの一箱書店の棚主さんによる「一箱古本市」が開催されます。

 山川菊栄記念会としても出店し、記念会の刊行物、菊栄の著作、またメンバーの古本の販売します。こちらも是非お立ち寄りください(13時~18時)。それ以外の日でも、シェア本棚がありますので、BOOKYさんにもぜひお立ち寄りください(営業日は原則金・土・日・月とのことですが、貸し切りのときもありますので、Webサイトをご確認ください。)。

 「わが住む村」を読みすすめた後には、山川菊栄の住んだ家の跡などをめぐる「まちあるき」を計画しています。「まちあるき」だけの参加も募りたいと思っています。ご興味あるかたはお知らせください。

山川菊栄のパネルが村岡市民センターオープンで披露されました。

東海道の線路を挟んだ神奈川県藤沢の村岡で、山川菊栄は後半生を過ごしました。戦前は3000羽ほど飼っていたというウズラ園を経営していたこともありました。都会育ちだった菊栄は、近所の人々に農作業の教えをこいながら、土地の歴史を少しずつ聞き、優れた地域史であり民俗誌でもある『わが住む村』を書き出版しました。1943年のことでした。

この「わが住む村〜山川菊栄と村岡村」と題したA1版のパネルを山川菊栄記念会で制作し、10月4日にオープンした村岡市民センターの一角に掲出していただいております。

4日の内覧会では、孫の山川しげみ氏をはじめ、ゆかりの方々、住民の皆様が大勢足を止めてご覧いただきました。
駐車場側入り口から入ってすぐ、ロビー2の休憩室に近い壁面の角、地域の古い写真とともに、見ていただけるようになっています。

掲示にあたり、谷津えみさんのご尽力、村岡市民センター長のご理解をいただきありがとうございました。ました。制作にあたりご協力くださいました、岩波書店、神奈川県立図書館にもに心から感謝申し上げます。

「山川菊栄カフェ」(わが住む村 読書会)。9月20日(土)に開催します。


『わが住む村』読書会。第11回目が8月9日(土)に開催されました。参加者10名。
「粟飯、麦飯」の途中(p.97)から最後まで。味噌、餅、小麦、大豆、梅仕事。戦前から戦中の、この藤沢の地で人々が食べていたものが紹介されます。中でもジャガイモは、これは菊栄自身も種芋から育てて収穫したとのこと。その様子は前回も紹介された『村の秋と豚』の中に、まさに「ジャガ芋作り」という掌編にも記されていましたので、あわせて朗読していただき、共有しました。

次回は、「綿畑と狐のゆくえ」(p.110~)から読んでいきます。一龍斎春水さんが朗読してくださる予定です。
『わが住む村』(https://dl.ndl.go.jp/pid/9539136/1/47)も、『村の秋と豚』(https://dl.ndl.go.jp/pid/1037741/1/11)のいずれも、国立国会図書館のデジタルコレクションで、アカウントを登録した個人限定でみることができます。登録方法はこちらからご覧いただけます。



また、読書会の会場であるブックカフェ BOOKY さんには、山川菊栄記念会のシェア本棚があり、そこでも著作などを手に取っていただけますので、読書会でない日でもぜひお立ち寄りください(営業日は原則金・土・日・月ですがWebサイトの営業日カレンダーをご確認ください。)

BOOKYさんの山川菊栄の本棚
NHKBSで現在再放送中の「花よあらしよ」の原作もおいています。

読書会の今後の予定は、
・ 9月20日(土)14時から
・10月19日(日)14時から

を予定しています。
 参加費は無料ですが、カフェでのオーダーをお願いします。
 ブックカフェ営業中ですので、ふらりとお立ち寄りになるのでかまいません。初めての方、大歓迎です。ただし椅子のご用意の都合もありますので、できればご連絡いただけると助かります。みなさまのお越しをお待ちしています。
連絡先:y.kikue @ shonanfujisawa.com (半角をつめてください)

藤沢の読書会が第10回を迎えました。


 山川菊栄が終生住んだ藤沢・村岡。その地にほどちかい柄沢橋のブックカフェ BOOKY さんにて、山川菊栄について語る場が作れたら。そんな思いで『わが住む村』の読書会をはじめましたが、ついに7月13日(日)には第10回目の開催となりました。

 毎回少しずつ『わが住む村』を読み進めていますが、いよいよ後半にさしかかったというところ。今回は「行事と五人組」の途中から。隣近所で構成される「組」の単位で、屋根の茅を葺いたり、縁組(結婚式)のお手伝い。それよりも大がかりになるのがお葬式のお手伝い。大きな旧家では何日もかかって飲み食いし、組の人だけでなく、町から料理人を呼んでくるほどだったそう。そのほか道路の清掃や草刈りなども「組」で日をきめていっせいにやったとか。農業作業の共同体という意味もあった五人組ですが、勤め人が増えるにしたがって、共同作業の集団から(戦時下の)配給を配る共同体に変わっていくさまが、山川菊栄の筆致で描かれていました。

 ここまで読んだところで、同時期に、あるいは『わが住む村』の下敷きになるような菊栄の文章が紹介されました。1941年(昭和16年)1月、宮越太陽堂から刊行された『村の秋と豚』です。この本では他誌に書かれた文章・エッセイを1冊にまとめたものですが、巻頭に収められた表題の「村の秋と豚」は、(昭和15年)と末尾にあり、その時に書き下ろされたものだろうということです。8ページほどの文章でしたので、こちらも朗読していただいて共有しました。家庭防火群という組ができて防空演習に駆り出されていく話からはじまりますが、ちょうどその頃は稲の刈り取りの季節、また、芋の収穫の時期でもあり、1日でも遅れると値が下がってしまうという忙しさの中でも、演習をしなければならない―といった姿が描かれています。そのあと、これまでは農家で豚を飼っていたが、それをやめてしまったという話になり、山川菊栄の父が陸軍で豚の飼育と食肉加工を手がけていたという話に続きます。山川菊栄の家系をみる中で、この父の仕事も特筆すべきものであり、どこかで紹介されたらと語り合いました。
(『村の秋と豚』については、国立国会図書館のデジタルコレクションで、登録個人限定でみることが出来ます https://dl.ndl.go.jp/pid/1037741/1/7

 『わが住む村』にもどって。「粟飯、麦飯」の節。白米ばかり食べるようになったのは大正以後のはなし。それまでは麦をまぜて食べていたとのこと。また、現金収入を得るために外に売り出すのは、収穫した米のうちフルイに残ったよい粒のほう。農民は屑米を食べていたとか。主食から副菜、この藤沢・村岡の住民が、なにを育ててなにを食べていたのか。それこそ民俗史にとっての貴重な記録、と言えましょう。

 今回は参加者9名でしたが、それぞれ「ひとりで読んだのでは得られない気づきがあった」と感想を述べ合いました。さらに「このWebページを見て来ました」と、海外からの留学生も訪れてくださいました。本国では山川菊栄の翻訳が少ないそうですが、それでも日本近代史研究なおかつ山川菊栄を研究のテーマにされているとのこと。この山川菊栄カフェが、世界へつながる架け橋になるのかと思うと、開催してよかったと思います。

 次回は8月9日(土曜日)14時から開催します。「粟飯、麦飯(p.97~)」の途中から。一龍斎春水さんが朗読してくださる予定です。
 会場はいつものとおり、藤沢・柄沢橋のブックカフェBOOKYさんにて。参加費は無料ですが、カフェでのオーダーをお願いします。
 ブックカフェ営業中ですので、ふらりとお立ち寄りになるのでかまいません。初めての方、大歓迎です。ただし椅子のご用意の都合もありますので、できればご連絡いただけると助かります。みなさまのお越しをお待ちしています。
連絡先:y.kikue @ shonanfujisawa.com (半角をつめてください)

藤沢ゆかりの輝けるヒロインとして山川菊栄がよみがえります。


藤沢のシェア型ブックカフェのBookyさんで行われてきた読書会が10回となりました。Bookyさんは、藤沢市柄沢にあり、その柄沢はかつての村岡村で、読書会で読んでいる
山川菊栄の『わが住む村』のまさしく一部なのです。その地元常連の参加者谷津さんから、ネット検索で素敵なページが出てきましたよ、と情報をいただきました。


それは、通販化粧品のオージオのサイトにある、時代をかけぬけた輝けるヒロインたち、というページです。洋の東西、文理を問わず各分野から毎年5、6人について、女性たちの業績、作品を本人の名言を織り込みながらエッセイ風に書かれた世界女性史とでもいえるもので、山川菊栄は2022年に紹介記事がアップされていました。


山川菊栄の名言のいくつかを見出しに掲げ、その生涯について簡潔に要点を漏らさず書かれています。ただ惜しいことに山川均と警察で出会う留置の原因として、平民運動会を見に行ったというのは誤りで、天長節前日に行われた社会主義講演会を聞きに行って、警察の張り込みの網に見事に引っかかってしまったのでした。
その後の均と恋愛に陥りラブレターを交わす熱いエピソードは、『未来からきたフェミニ
ストー北村兼子と山川菊栄』
(花束書房)の中で、記念会事務局長の山田敬子が書いています。

ところで、谷津さんは藤沢で二期目の市議会議員を務めており、先月6月25日の本会議では、藤沢ゆかりの人物として山川菊栄とともに、一般質問でJR東日本が新設する予定の村岡駅(仮称)近くに移転する村岡市民センター(旧・公民館)のことを取り上げました。1936年、稲村ケ崎より鎌倉郡村岡村に転居し、亡くなる1980年まで、村岡の地に住んでいた山川菊栄のことを記録・紹介するするコーナーをつくることを提案し、藤沢市の担当部局から、パネル展示等は可能であるとの議会答弁を得ています。議会録画はこちらからご覧いただけます。


さて、山川菊栄の作品は、戦前から中国語やハングルに雑誌論考が翻訳されたり、戦後は武家の女性について英語の翻訳がありましたが、最近、フランスをはじめ、海外でもその業績に注目が集まってきています。先日の読書会には山川菊栄を修論のテーマにする中国からの留学生が参加してくれました。国内外から山川菊栄に関心を持つ方々がゆかりの地、藤沢・村岡に、10月新しくオープンする新・村岡市民センターを訪れてくださる日が来るかもしれません。山川菊栄の魅力を伝える場の一つになることを期待しています。

追記:2025年8月25日にオージオ様より、「時代をかけぬけた輝けるヒロインたち」の山川菊栄ページを修正されたとの連絡を受けました。迅速な対応に感謝申し上げます。
https://ozio.jp/community/heroine/96.html