藤沢の読書会が第10回を迎えました。


 山川菊栄が終生住んだ藤沢・村岡。その地にほどちかい柄沢橋のブックカフェ BOOKY さんにて、山川菊栄について語る場が作れたら。そんな思いで『わが住む村』の読書会をはじめましたが、ついに7月13日(日)には第10回目の開催となりました。

 毎回少しずつ『わが住む村』を読み進めていますが、いよいよ後半にさしかかったというところ。今回は「行事と五人組」の途中から。隣近所で構成される「組」の単位で、屋根の茅を葺いたり、縁組(結婚式)のお手伝い。それよりも大がかりになるのがお葬式のお手伝い。大きな旧家では何日もかかって飲み食いし、組の人だけでなく、町から料理人を呼んでくるほどだったそう。そのほか道路の清掃や草刈りなども「組」で日をきめていっせいにやったとか。農業作業の共同体という意味もあった五人組ですが、勤め人が増えるにしたがって、共同作業の集団から(戦時下の)配給を配る共同体に変わっていくさまが、山川菊栄の筆致で描かれていました。

 ここまで読んだところで、同時期に、あるいは『わが住む村』の下敷きになるような菊栄の文章が紹介されました。1941年(昭和16年)1月、宮越太陽堂から刊行された『村の秋と豚』です。この本では他誌に書かれた文章・エッセイを1冊にまとめたものですが、巻頭に収められた表題の「村の秋と豚」は、(昭和15年)と末尾にあり、その時に書き下ろされたものだろうということです。8ページほどの文章でしたので、こちらも朗読していただいて共有しました。家庭防火群という組ができて防空演習に駆り出されていく話からはじまりますが、ちょうどその頃は稲の刈り取りの季節、また、芋の収穫の時期でもあり、1日でも遅れると値が下がってしまうという忙しさの中でも、演習をしなければならない―といった姿が描かれています。そのあと、これまでは農家で豚を飼っていたが、それをやめてしまったという話になり、山川菊栄の父が陸軍で豚の飼育と食肉加工を手がけていたという話に続きます。山川菊栄の家系をみる中で、この父の仕事も特筆すべきものであり、どこかで紹介されたらと語り合いました。
(『村の秋と豚』については、国立国会図書館のデジタルコレクションで、登録個人限定でみることが出来ます https://dl.ndl.go.jp/pid/1037741/1/7

 『わが住む村』にもどって。「粟飯、麦飯」の節。白米ばかり食べるようになったのは大正以後のはなし。それまでは麦をまぜて食べていたとのこと。また、現金収入を得るために外に売り出すのは、収穫した米のうちフルイに残ったよい粒のほう。農民は屑米を食べていたとか。主食から副菜、この藤沢・村岡の住民が、なにを育ててなにを食べていたのか。それこそ民俗史にとっての貴重な記録、と言えましょう。

 今回は参加者9名でしたが、それぞれ「ひとりで読んだのでは得られない気づきがあった」と感想を述べ合いました。さらに「このWebページを見て来ました」と、海外からの留学生も訪れてくださいました。本国では山川菊栄の翻訳が少ないそうですが、それでも日本近代史研究なおかつ山川菊栄を研究のテーマにされているとのこと。この山川菊栄カフェが、世界へつながる架け橋になるのかと思うと、開催してよかったと思います。

 次回は8月9日(土曜日)14時から開催します。「粟飯、麦飯(p.97~)」の途中から。一龍斎春水さんが朗読してくださる予定です。
 会場はいつものとおり、藤沢・柄沢橋のブックカフェBOOKYさんにて。参加費は無料ですが、カフェでのオーダーをお願いします。
 ブックカフェ営業中ですので、ふらりとお立ち寄りになるのでかまいません。初めての方、大歓迎です。ただし椅子のご用意の都合もありますので、できればご連絡いただけると助かります。みなさまのお越しをお待ちしています。
連絡先:y.kikue @ shonanfujisawa.com (半角をつめてください)

菊栄カフェ読書会@藤沢からのお知らせ

11月17日に開催された、第5回菊栄カフェ・読書会の報告ですが、8名のみなさまのご参加がありました。会場のBOOKYさんにはいつものように御協力いただきありがとうございました。

 前半は、山川菊栄関連の話題提供・共有として、記念会サイトで公開している「山川菊栄記念館*資料部情報」を印刷したファイルなどのプリントアウトをBOOKYさんに来店した方が、いつでも読んでもらえるように、12月1日から新たにレンタルスペースの棚一つに置いていくことになりました。

また、日仏会館百周年記念日仏シンポジウム「フランスにおける40年の日本研究、これからは?」(11/14-15)二日目にあった「人種差別と植民地主義を再考する」の中で、ピエール=フランソワ・スイリ(元ジュネーブ大学教授)氏が、戦前の日本において、山川菊栄だけが、人種・性・階級の差別をあわせて論じていたと紹介されたとのことで、その根拠となる山川菊栄著「人種的偏見・性的偏見・階級的偏見」(『雄弁』1924年6月号掲載)について、朗読をつうじて共有しました。

 後半は、村岡公民館に掲示してある弥勒寺周辺の書き起こし地図の写真提供があり、みんなでみました。「山川均邸」などがかかれています。そのあと、「わが住む村」の続き(p27~p39)から「助郷の禍」「黒船来たる」を一龍斎春水さんの朗読で読み、引用と菊栄の文章の絶妙なバランスに気づかされました。

菊栄の本棚
BOOKYさんの棚「シェア型書店」をオープンしました。



12月1日からいよいよ、会場としているBOOKYさんの本棚をレンタルし、「山川菊栄記念会」書店をオープンしました。記念会の編集出版書籍をはじめ、菊栄の著作や、女性関連書籍を販売します。『わが住む村』岩波文庫の古本も何冊か置きましたので、お持ちでない方はここからお求め下さい。
このほか、菊栄資料のプリントアウトもこの棚に置いておきますので、BOOKYさんにぜひご来店くださって、手に取って読んでいただけたらと思います。
BOOKYさんの営業日・時間はこちらをご確認ください(金土日月営業です)。

*次回読書会は2025年1月11日(土曜日)14:00から開催です*
BOOKYさんで何か好きなものをオーダーしてくだされば、どなたでも参加できます。イスの用意がありますので、初めての方はご連絡いただければ幸いです。

*参考  文中の各種文献がダウンロードできるリンクをご紹介します。

・山川菊栄著「人種的偏見・性的偏見・階級的偏見」(『雄弁』1924年6月号掲載。)が読めるのは、

田中寿美子, 山川振作 編集『山川菊栄集』3,岩波書店,1982.4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12144384/1/139

鈴木裕子 編『山川菊栄女性解放論集』2,岩波書店,1984.5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12143124/1/45

・棚においてあるPDFのダウンロードができる場所:オープンアクセスでどなたでも自由にお読みいただけるようにしています。

山川菊栄記念会『資料部情報』https://yamakawakikue.org/archives_info/

山口順子「『山川菊栄文庫資料』(神奈川県立図書館蔵)のうち青山延寿出版関係史料概要について」補論で「覚書 幕末の水戸藩への道程」を書いています。(科研B-20H01319「維新政権期の木版刊行物に関する学際的研究およびオープンサイエンスの推進」2020年度~2023年度 研究代表・国文学研究資料館研究部・総合研究大学院大学 藤實久美子教授)の研究サイト内 からダウンロードできます