『文藝春秋』8月号の「日本の100人」に山川菊栄が挙げられました。

「隠れ 水戸水脈」と題して、徳川慶喜、渋沢栄一、菊池寛、山川菊栄、林芙美子の5人を「日本の100人」に推薦する文章を書かれたのはフランス文学の鹿島茂さんです。以前、森まゆみさんとの『東京人』の誌上対談で山川菊栄の若き日のポートレートを激賞されたとのことですが、今回も「地に足のついたフェミニスト」と強力な「推し」が示されています。

このなかで、菊栄が、麹町四番町の隣に住む祖父・青山延寿の薫陶を受けたと書かれています。水戸藩藩儒の青山延寿の長兄で、青山延光の家は総裁を務めた藩校弘道館の前からまっすぐ続く田見小路にあり、光圀のブレーンであった朱舜水を霊を祀る堂の向かい側に位置していました。関ケ原の戦いのあと転封された佐竹家中であった青山家は水戸に残り、代々その祠堂を守る役目でした。いまはNTT東日本水戸支局前に小さな朱舜水の像がありますが、青山家との関係を知るよすがは見つけられないのです。

山川菊栄はかつて当代きっての評論家として、『婦人公論』はもとより、いわゆる月刊総合誌への執筆も多く『太陽』『中央公論』『改造』『雄弁』『世界』などとともに、『文藝春秋』にも随筆を書いたり座談会に参加したりしています。長くなるので記事のいくつかの紹介は続編へ

女性労働協会サイトが「行政資料デジタルアーカイブ」を再開

ちょうど一年ほど前、山川菊栄が初代局長を務めた旧労働省の婦人少年局等資料約3000点について、厚生労働省主導により譲渡計画があることがわかり、記念会では、国立公文書館ならびに国立国会図書館への移管を要望しましたが、譲渡は去る11月に実施され、国立女性教育会館を主なる譲渡先として、ほかに国立国会図書館、昭和館などの公的機関や個人へ分散して所蔵されることとなりました。神奈川県立図書館でも所蔵する婦人少年局資料の欠本を補うため譲渡を受けています。

そして、今年の3月には、旧女性の仕事と未来館以来、デジタルファイルで提供されてきた「行政資料デジタルアーカイブ」も突如閉鎖となってしまいました。このことについても、記念会は女性労働協会サイトでの継続公開と、デジタルデータ一式を国立公文書館と国立国会図書館へ、女性労働協会からの法人としての寄贈を要望しつづけました。
このほど6月12日に、サイト上でこの「行政資料デジタルアーカイブ」の再開が告知となりました。https://www.jaaww.or.jp/topics/5744/ <2023年7月4日確認>


記念会が要望してきたことであり、多くの利用者にとって待たれた再開です。

旧労働省婦人少年局資料は、とりわけ戦後に初めて開始された、国による女性の人権状況を改善する政策の資料群と考えます。同じものを、国立女性教育会館や国立国会図書館に図書資料として入れる意味と、国の政策の証拠として国立公文書館法に基づき、同館に入れる意味は全く異なります。
厚生労働省には、一式を移管することを求めてきましたが、これについては残念ながら実現しませんでした。


国立公文書館の「公文書の世界」というデジタル展示では、厚生労働省から献血普及のための「マスコットキャラクター」が広報資料として移管され、中性紙箱に保管されているとあります。
https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/koubunshonosekai/contents/42.html
ぬいぐるみの「けんけつちゃん」は移管されても、山川局長時代の旧労働省婦人少年局の行政資料は一切移管されませんでした。

書評が掲載されました

女のしんぶん』(2023年6月25日・第1297号)に『未来からきたフェミニスト 北村兼子と山川菊栄』の書評が掲載されました。「社会を変えようとした2人の女性」と題し、山川菊栄記念会世話人の中村ひろ子さんが書いてくださいました。

花束書房の伊藤春奈さんが編集した新しい視点に満ちた諸論考は気鋭の若い人々によるもので、中村さんは、山川菊栄がフェミニストではない、という否定説に対して、否定することはできないだろうと強調されています。

関東大震災100年

神奈川県立図書館では、企画展示「関東大震災100年 神奈川県の被害と復興」が開催中です(12月13日まで)。
山川菊栄が被災後、母千世にあてた手紙も山川菊栄文庫関連資料から初披露。去る6月2日には朗読会「明日へ」も開催され、その手紙が読まれたということです。

陸軍の甘粕正彦大尉らによる大杉栄、伊藤野枝、大杉の甥・橘宗一の虐殺のあと、山川一家も狙われている可能性があるとの助言で、振作を連れて兵庫県垂水に逃れていきました。
逮捕ではなく直接有無を言わせずに命を狙う国家的テロ、現代でも世界のどこかで起きている、山川一家も直面したそのことの暴力性を改めて問わねばなりません。